水苔と鮎

実際の店舗になると、直観的に欲しいものが陳列されているとは限らない。ネットショップのように倉庫が別に付いているわけでなく、また地縁によるところもある。かつて生協でアルバイトしていたころには、ジャガイモの袋詰めや棚にパッケージを並べることに遣り甲斐を覚えたこともある。

図書館でテラリウムという透明な瓶のなかで苔を育てるアイデアがあった。水苔は別の草木の保湿のためのマルチングで使うことがあるが、水苔は室内でもやがては干からびてしまう、瓶の中に入れておくと水苔から蒸散した水分がなかで霧になって、水分が循環する。そこで水のろ過に使う竹炭と、関西で自生する水生植物の水苔を瓶のなかに保存するという。家電メーカーのエンジニアはガラス瓶浄水器として、竹炭の多孔質の材質を利用して、上から水を灌ぐと下の蛇口にろ過された水が溜まる。ガラス瓶にしたのはプラスチックに比べて温度変化に強く、透明なのでなかでカビが生えたりすると点検しやすいという実用性を兼ねている。水苔の栽培だけであれば、同じように透明で光を通し、衝撃で割れないプラスチックの保存容器に竹炭を敷いて、棚で栽培していると光が当たる方向に伸びてくるので、ベランダに移動した。生の水苔は関西に自生する天然物で、乾燥した水苔はホームセンターでも売っている。水苔には養生という性質があり、ホームセンターの乾燥水苔に水分を含ませて、生の水苔が入った瓶に添えると、緑色が一部は蘇ってくる。とはいえ、数か月たってもすべての乾燥水苔が復活するとは限らず、一部ではあったけれど生命の不思議を実感した。船堀のダイエーでは一人暮らしを始めたころに家具や調理器具を揃えた場所で、そこでは必要十分なものを揃えるくらいで店に立ち寄っていったが、DIYのときに実際に店に足を運んだときの体験が、具体性を持ってくることがある。例えば蓄電池を保存する棚はキッチンで食器を干すためのステンレスの棚が高さが30㎝くらいで丁度よく、上にものを載せられる。

水苔は保水性があるので、ガーゼやスポンジの代わりにも使われている、また食用にもなる。しかしながら、水苔が日に日に少しづつ伸びる様子に見入ってしまい、ついつい食べるのを躊躇って二年くらいたった。はじめは焼きそばパック1個500mlくらいだったものが、土や竹炭を含めて4lくらいになっている。容器のなかではハーブ用の土を入れたものもあり、竹炭をいれたものより水苔の育ちがよかった。水苔にはカイミジンコなどの小さい生き物が住処を作っていたが、もし食べる時には洗って煮沸する必要がある。水苔は茹でても嵩が減らず、色も鮮やかな緑のままだった。味はあまりないけれど癖もなさそうだ。瓶のテラリウムでは、数か月の間季節が変わっても常に鮮やかな緑であり続けたので、それに比べると茹でたときの感触は印象があまり濃くならなかった。葉緑素を食べるのに水苔は適している。微生物のミドリムシをサプリメントに応用するというバイオテクノロジーがあるが、水苔とテラリウムも場所を取らずに自然を再現できる。植木鉢の場合は、水はけが良すぎると、地植えと異なり乾燥しがちになる。

また、川魚の鮎は緑がかった鱗が苔の色合いに似ている、あるいは川岸に水苔が自生していれば食べるかもしれない。鮎をスーパーマーケットで買ってきて、キッチンでワタを取って、腹開きにする。鮎の姿ずしにするときは中骨も取る必要があるので、手で小骨を取る、サンマのように背骨を取るときれいに身と骨が剥がれるとは限らず、いくらかは小骨がのこっていた。ワタを取った代わりに食べ物の水苔を詰めると、案外不自然でなかった。なるべく表皮を傷つけずに、調理したかったので、東南アジアのように魚を煮て調理することにした。

煮汁には、キッチンで栽培しているミントの枯れ枝で、褐色の出汁を取り、みりんとめんつゆで味を付ける。鮎からは少し苦い灰汁が出てきたのでティッシュで灰汁を取りながら30分ほど茹でる。また水苔の余った分は鮎に添えてみる。ワタは、苦いけれどソテーすればアクセントには使えそうだ。サラダ油とみりんでタレにする。そのようにしてご飯と一緒に食べてみると、川魚なので、塩味がなく薄味だったけれど、食べ応えがあった。小骨はいくらか残っていて、鯖の缶詰めほど骨は柔らかくないけれど、食べられない硬さではなさそうだ。ヒレや頭の骨もやがては食べるので、これはこれでコンビニエンスストアやファーストフードほど美味しくはないけれど、自然のものに感謝したくなるような鮮やかな緑を形にして見たかった。ミントもスッキリはしているが、味はそこまで美味しくない、それでも自然の恵みが葉っぱや茎に感じられる。鮎は地方の自然の川だけでなく、都内の浄水設備が整備されたことで河川敷に戻ってくるというケースもある。ささやかながら、水苔から地方と都会の自然環境の調和を試みてみたい。

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