素麺と片手鍋

ストーリーに感化されたというかもしれない、そうめんは美味しんぼの三輪そうめんを扱った涼風そうめんの逸話から、梅雨入りかっら気温が上がる夏にかけて、食欲が落ちる。それは僕が味覚というより、単純にお酒のアルコールが苦手で、また体力もバテ気味だったからともいえる。けれどそうめんの細い麺が、手延べという製法で丹念に伸ばされたものとアニメの逸話を見ると、そうめんがとても素朴で美味しいものに見える。スーパーマーケットでそうめんを買って、片手鍋で煮ると、涼し気でスッキリした後味が残る。麺を棒に編み物のように掛け巻きをする様子などは風景に調和して何とも言えない、それは味というよりひとつの文化であり風習なのだと思った。

また、大学の下宿先では、古本屋で美味しんぼを買ってきて、2巻のジャガイモのパンケーキを作ったりとしおらしいところがあった。正直あまり美味しくなかったようだけれど。行徳では、不動産屋がアパートの近くにあったので、東京都東部にあるスーパーヤマイチで買った大根餅を焼いているところを迎えたことがあった。

また一人暮らしのときに無印良品で動物の片を取ったパスタがあり、ブロンズダイスという鋳型で小麦粉を伸ばしているから、表面がザラザラでソースが絡みやすいという、竹の籠でもその存在感から、なにを入れるわけでもないのに買ってしまったりする。ともかくそこでその小麦粉の感触が同じパスタで、イタリアの雰囲気があるものとして、ディチェコのパスタがあった。蕎麦のようにゆで汁も飲むことができる。そこで美味しんぼではいろんな食材の中でも、いわゆる食通がたべるものでなく、一般家庭にも普及したものでとくに麺となると、おそらく僕がスマートフォンやネットカフェなどで空いた時間に調べるよりも詳しく自説を展開するだろうと予測された。ところが冒頭ではチェルノブイリ原発で汚染された小麦が輸入されているという、おそらくは深刻だと常識的には考えるが、突拍子もないものだった。パスタの茹で加減は多少芯が残るアルデンテがよく、メニューはニンニクの玉ねぎのパスタがシンプルで、それだけに鮮烈な印象があった。なにより鍋焼きうどんのように具沢山なものでなく釜揚げうどんのようにシンプルに味わうというのは、却ってバリエーションを豊かにした。自炊にそれほど興味が無く、立ち食い蕎麦でも食べてしまうけれど、献立の意味を感じた。

ディチェコは、郊外のスーパーマーケットでも、都心の成城石井でもイタリア風の素朴な麺として揃っている。応用としてはラーメン次郎という、野菜を山盛りに太麺の上にのせる若者向けのスタイルがあり、その麺は市販の中華麺や即席のチキンラーメンのようなものでなく、食感だけならディチェコのリングイネが近いという、腰の強い太麺と野菜炒め、別に食糧難でないのにも関わらずそういったメニューはありそうでなかった。ところが、ディチェコのリングイネがそこまで大食いでもないので、一人でいったころもない次郎の麺に食感だけは近いという、例えばボンカレーが給食の肉じゃがのようなカレーだったとして、ソフト麺という、パスタでもラーメンでもないようなノッペリした麺が、僕らが小学生だったひとつ前の世代では出ていたという。また揚げパンなども、たとえ栄養バランスが取れた現代でも忘れられない味になっていると先輩が話してくれたことがあった。

僕らの世代では、パスタをイタリアで輸入して、食生活が魚から肉に変わっていく平成の世で、鮮魚をアクアパッツァにしたりして、いままで市場には魚屋や仕出し料理屋の後継者しか通わなかったところに、カジュアルな埋め合わせをしたとも言われている。

小野式製麺機という歯車の馬力で、うどんの麺を伸ばす機械がある。群馬県という繊維産業が盛んだった地域では、そういった素朴なものがある。蕎麦は石臼で挽く様子、うどんは足で踏んで腰を出す様子が、印象的ではあるが。オイルサーディンに漂っている綿実油で歯車の間に食べても大丈夫な油を機械に挿して、電気でなく人力で同じ幅の麺を作り置きする。そこにはそうめんのような手作り感は必ずしもないのかもしれないが、農夫と労働者が分業して全自動化する前の手工業は、中世の封建社会と近代の間の鎹のような役割をしていた。

またパスタのブロンズダイスがどんなものか、久しぶりにディチェコを茹でてみると興味がわいた。蛇口の黄銅製の鋳型に、ところてんのように水で捏ねた小麦を押し出していく。また、生パスタは製麺機でシュレッダーのように短冊状に仕立てる。あるいはディチェコでは卵などの繋ぎをつかわずにデュラムセモリナを純粋に味わえるという。それならカレーをインドよりマイルドで食べやすくした日本人なら、パスタを内製化できそうな気もするが、鋳型はベーゴマなどのブリキのおもちゃをトタン屋根から金属を溶かして形にする。そういったモノづくりは、かつてはあったが今では素朴で温かみが残っている。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です