とある建物のメンテナンス作業

夜になると、建物の景色がいつもと変わってに見える。
とあるビルでは、エレベーターとフロアが直結していて、より広く見える印象があった。それでも、デスクには電話とイヤホンにパソコンが置いてある。インターネット回線はフロアだけで繋がっている。
壁には無線LANのルーターの大きいものが付いていたけれど、wifi電波はないようだ。フロアの席の数は数百ある。そこには同じだけの従業員が働いているようだ。ちょっとしたアクセサリが置いてあると、なぜだかそれを眺めているだけで落ち着く。ただ無機質なオフィスというよりは、そこに生活があって、家族がいるという感じがする。そう言った感慨もありながら、仕事はなるべく遅れず、順番通りに決められたことを行なっていく淡々として行こうと思った。その間に連帯感があって、意識がどこかで繋がっているような気がした。オフィスでのメンテナンス作業を終えて、休憩していると色々な年代の人がいて気さくに対応していただいた。その道のベテランの人は、どこか風格があり、チェックシートでもしっかりとレ点や名前が書いてある。僕はなかなか名前を書くことができず、レ点を後から付けて言ったようで、追いついていくのがやっとだった。インターネットは繋がっていなくてもwindowsのコマンドプロンプトは使える。初めは、パスワードやファイルパスを何度か入力し間違えていたが、繰り返すごとにスムーズになってゆく。フロアの机の配置感覚と、こちらの作業の効率は比例するようだ。初めは、たった1台の机にあるパソコンの一台分の視野しかなく、これが10台、20台あるとなると、途方も無いような気分になる。視点を少し周りに向けると、5台で1列の中の1台という配置が見えて、隣ではそれぞれだいたい30分で1列くらいのペースで進んでいる。そうするとだんだんと時間が流れてきた。

次の日はその隣の60Fのビルの中のパソコンの業務用ツールのメンテナンスになった。先日より、少し時間が早い。60Fのビルは1990年に竣工し高度経済成長の先駆けともいえるモニュメントだった。それでも今から20年くらいの歳月が経っており、伝統を感じさせる落ち着いた風合いを持っていた。本来であれば、このような場所で作業ができることはないので、それだけでも参考になることはある。同じ系列の会社でも、ビルが違うだけで風土が違うように見えた。パソコンのUIも敢えて昔ながらものを使っている席もあった。エレベーターに乗ると外の景色は見えなくなる。セキュリティがあるオフィスに外が一望できる窓が付いている。50Fのフロアは屋上に近く、青を基調にして近現代的なトーンになっていた。30Fのフロアは、そこから街が一望できるけれど、収納と机のレイアウトを限られた広さの中で共存する工夫がところどころに感じられた。エレベーターは40Fで乗り換える必要がある。深夜になると、営業が終わった通路の明かりが消灯して、そこで時間帯が推し量れる。入館カードが2重になっていると、改札に入るときにICカードの読み取りが思うようにいかないこともあり、通路で連絡を待っているときも、一緒に冒険をしているような気分になった。50Fのフロアにチェックシートを残すだけのところで、ペンを忘れてしまってそわそわしてしまうことがあった。それでも、作業の内容を自分で順序立てて行うようにアドバイスをいただいたりと、初めて作業をする僕でもきちんと継続するために励ましていただいた。60Fフロアごとに列が決まっているというより、各グループごとにそれぞれが世帯を持っていて、複合的な町のようになっていた。ビルの地下街ではコンビニや飲食店や郵便局もあり、そこで腰を落ち着けて仕事をする方も多いのかもしれない。それだけに、地下街から新刊の本や、グッズをそれぞれの持ち場まで運んでくる労力を想像すると、それだけ意識的に環境を作っている意欲を感じる。
部署の営業が終わりその一帯のフロアの電灯が消灯すると、まるでフロア全体が眠りについたようだ。50Fにはノートパソコンが多く、比較的新しいOSが入っている。チェックシートの色は黄緑色で、今までの青いチェックシートでの作業に比べると、電源を入れるボタンも小さく、CDをインストールする作業も省略されている。それでも、今までと異なった方法で、マニュアルにないことを行うとなると少し気が重くなった。それでも、50Fのフロアは、色合いがパステルカラーで、立って話し合いをするオープンスペースや、外の景色を眺めながら腰掛けられるソファもある。そこに長居はできないにしても、そう言った風通しを良くするような空間があると、どこかだんだんと和んでくる。インターネットには繋がっているかはわからなかったけれど、書籍や企画書はどことなく外の変化に柔軟に対応するような印象を受けた。50Fの共有スペースにはオフィスグリコだけでなく新刊や参考書もあり、同じフロアでも30Fにあるものより開かれた印象があった。何より作業が始まった頃と、協力して終わったあとでは同じ机や廊下でも見え方が変わるので、基本的にはどこでもそう言った要素があれば散歩もどこか深みが出てきそうだ。ビルから出た飲食店ともどこかでは繋がっている。この町には見えない道が伸びている。

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